騒音新時代

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深夜の帰宅。誰もいないはずの我が家から、笑い声が聞こえる。

「テレビ?」

私はほとんどテレビを見ない。だから、つけっぱなしで出かけることもない。けれど、ドア越しに聞こえてくる声は、バラエティー番組のものだ。声の主は“明石家さんま”。“さんま”の喋りに同調して、大勢の女性が笑っている。

テレビのスイッチが勝手にオンになる…映画「リング」のようではないか。画面から貞子がでてくるのであろうか。いやだなぁ。

恐る恐る鍵を開け、リビングへ。テレビは消えている。あぁ良かった。

「じゃあ、この声はどこから?」

テレビよりも強く低い音は2か所から。ひょっとして…。オーディオスピーカーのボリュームを上げると、“さんま”の声が、さらに大きくなる。やはりそうだ。音の源はオーディオスピーカーだった。Bluetoothで接続できるものだ。使わなくなったスマートフォンから、音楽を飛ばして聴いている。

みると、スマートフォンのバッテリーが切れていた。この隙に、よその家のオーディオ機器が、我が家のスピーカーに、ブルートゥース経由で接続してしまったようだ。

ブルートゥースの到達距離はだいたい10mくらいだそう。角部屋なので隣ではあるまい。すると階上か階下か。築40年のマンション。薄いのは壁だけではなく、床もそうだったとは。

この夜は、スピーカーの電源を落とし、事なきを得る。しかし、これで終わりではなかった。

階上(または階下)の住人は、我が家のブルートゥース受信機と「自動接続設定」してしまったらしい。その後、隙あるごとに、テレビ音声が割り込んでくるようになった。

電子レンジで接続が切れたとき。電源を入れたとき。先を越され、敵の接続を許すと、

「さんま御殿」
「海老蔵家族のお出かけ」
「おかあさんといっしょ」

などのテレビ番組がスピーカーから鳴り響く。隣人の好みは、我が家のノイズ。負けじと、接続が切れるや否や、スマートフォンの設定画面を開き、再接続を試みる。しかし、敵の方が、電波が強力なのか、距離が近いのか。先んじられることもしばしばである。

ネットによると、対策は「機器の場所をずらすこと」だそう。なぜ、侵略者のために、こっちがレイアウトを変えねばならんのか。

我が家のスピーカーを巡る戦いははじまったばかりだ。