経験豊富の「経験」って人柱のこと

「量質転化された手術力がある」

電車内でみかけたキャッチコピーである。テレビCMでもよくみかける美容外科のもの。「良質転化」? 聞いたことない。化学用語のような響きは、ちょっとカッコいいかも。

検索すると、説明してるサイトがいくつか見つかった。意味は「量をこなせば質が上がる」とのこと。「たくさん手術してきたから、腕がいい」といった感じか。知ってる言葉だと「経験豊富」。「経験豊富な医師がいる」ということらしい。

この美容外科はともかく。このキャッチコピーは不快ですねぇ。

知らない言葉を使ってるし。その言葉も不適当だし。患者(お客さん)が「量」?人柱、という言葉が思い浮かぶ。

「経験豊富」では古くさいと思った広告代理店あたりが作ったのだろう、と思ったら違ってた。作った(もしくはこの単語を入れた)のは、美容外科の経営者らしい。過去のインタビュー記事で、この用語を含めた発言をなさっている。
「『量質転化』と言って量を絶対的にこなさなければ技術が上がっていかないですよね。技術は後からついてくるじゃないですか。件数こなして習えばついてくるんですけれど…(略)」
(https://www.biyou-ikyoku.com/interview/006/)

この美容外科の、2022年4月の採用人員数は626名。医師も含まれる。ここに行ったら「件数をこなす前」の新人医師にあたってしまうのでは…。もちろん、新人医師が施術するのは、当たり前のこと。だけど、わざわざキャッチコピーで意識させられると、怖く感じてしまう。

同美容外科には、「二重術を受けた2.5人に1人が〇〇〇です 」というキャッチコピーも。患者「量」を強調したいということが、うかがえる。

電車内を見回すと、同美容外科の広告だらけだ。はたして、広告「量」から顧客量へ。そして、顧客量から顧客満足度へ転化できるだろうか。

東洋経済「決算書大解剖」にアウトソーシングしたい

ようやく、東洋経済6月4日号「決算書大解剖」を読む時間ができた。各社が株主総会を行う6月に発行された決算書(=有価証券報告書)を、わかりやすく解説している。

たとえば、セブン&アイ・ホールディングス(以下セブン)とイオンの比較だ。

「セブンの方が売上は少ないけど、利益は多い」

一言で言うと、こうなる。要因は中核事業の違いだ。セブンの中核事業はコンビニ。イオンはスーパー。コンビニの方がスーパーより儲かる。コンビニを中核に据えているセブンは儲かる。なぜ、コンビニが儲かるか。フランチャイズ展開しているため、ロイヤリティを得ることができるから。わかりやすく、疑問も解消される。良い特集だと思う。

筆者も、企業記事を書くとき、決算書を利用する。利益は増加傾向か、主たる事業は何か、それにどれくらい依存しているか、などを調べる。これが結構面倒くさい。過去データをエクセルに打ち込んだり、同業他社と比較したりで数時間かかることも。

本特集は、そういった箇所をきれいにまとめている。見どころは抽出されてるし、見やすいグラフも作られてる。文章による解説付き。ここまで、アウトソーシングできたら、記事執筆は楽だろうなぁ。

この特集をベースに、少し掘り下げてみよう。

コンビニが儲かるのは、フランチャイズ展開しているから。加盟店が、商品廃棄コストを全て負担する「コンビニ会計」という、特殊なやり方で(多めに)「利益」を算出する。これに一定の率を乗じてロイヤリティを徴収する。加盟店の利益が極端に少なくなるため、批判されることも多い手法だ。

セブンの営業利益の大半(99%)はコンビニが源泉である。特集のグラフによると、売上を占めるのは、国内コンビニが10%ぐらい、海外コンビニが60%ぐらい。国内の方がはるかに少ない。にもかかわらず、営業利益は、国内コンビニが58%、海外コンビニが42%、と国内の方が多い。つまり

「国内コンビニの方が売上は少ないけど、利益は多い」

ということだ。コンビニの主たる営業利益の源泉が「ロイヤリティ」だとすると、

「国内のロイヤリティの方が、海外より高いのではないか」
「日本のコンビニオーナー(加盟店)だけが不利益を被っていないか」

などの仮説を立てることができる。さて、実際はどうか。さぁ調べてみよう…って、なんて楽なんだろう! 記事執筆の「調査」作業の前段はほぼ終わっているではないか。編集担当のいる作家の先生はこんな感じなのかも。

そんな、恵まれた環境とは程遠い、診断士ライターは、コツコツと決算書を眺めるわけです。