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事実上の標準

経営戦略の講義続き。

今回はデファクト・スタンダード=事実上の標準、について。
「その製品やサービスの利用者が増えれば増えるほど、利用者の得る効用が高くなる」
これをネットワーク外部性という。デファクト・スタンダードが起こりやすいのは、このネットワーク外部性が働く産業である。

「例としてはビデオ規格のVHSが挙げられます」
「ベータという規格と競った結果、VHSがデファクト・スタンダードとして存続しました」

…これまた(前回同様)古い例が出てきたものである。

確かに松下対ソニーの戦いは壮絶であった…と言いたいところだが、ビデオが身近になったときには既に決着が付いていた。ベータはレンタルビデオ店で扱われないし、友人のビデオデッキもほとんどVHSになっていく(ベータだと成人男性向けビデオも貸してもらえない、なんて事情もあり…)。

唯一の例外は音質・画質にこだわるK君であった。

彼はベータに惚れ込み、既にVHSを持っていたにも関わらず追加でベータのビデオデッキを購入した。
彼曰く「やっぱ画質全然いいよ」

確かに性能は良かったらしい。テレビ局の撮影はベータで行われている、と聞いたこともある。家庭で録画するのがVHSであっても、オリジナル画像はベータというわけだ。

後半、ソニーはこの強みを活かし差別化戦略を採用する。
当時の音楽番組(MTV)の単独スポンサーとなり、CMに女性写真家を起用。

「綺麗だから私はベータマックスが好きです」織作峰子 SONY MTV CM

確かに高級かつ高性能に見えた。
けれどK君のような一部のマニアに受けたものの、状況をひっくり返すには至らなかった。

ソニーはこの苦い経験から規格統一に熱心になった、という話もある。

さて。この少し後、使っていたCDプレイヤーが古くなり、音飛びするようになった。
買い換えの時期がやってきたのだ。そして同時期にもうひとつのデファクト・スタンダード争いが進行していた。

LD(レーザーディスク)対VHDである。

 

イノベーションはS字曲線を描く

経営戦略論の講義を聴く。

イノベーションはS字曲線を描く。
不連続性である。

「例としてレコードからCDへの移行があげられます。」

また懐かしい事例が出てきたものである。

個人的な感覚では
レコード+カセットテープ → CD
が正しいように思う。

年配の方はご存知かと思うが、レコードは静電気ですぐ埃だらけになってしまう。傷も付きやすい。扱いがとても面倒なモノなのだ。

レコードを楽しむには以下の手順を踏む。

1.レコードをジャケットから取り出す
2.スプレーをかけ埃を取る
3.ターンテーブルに載せ
4.慎重にレコードの溝に針を載せる

これでようやく音楽が楽しめる。
しかもCDと違い両面(若者にB面って何ですか?と聞かれてショックだった)に録音されているため、片面(20分程度)聴くと裏返さなければならない。
あぁめんどくさい。

もっともマニアの方々は、この過程をも楽しんでいたように思う。
当時のメーカーもそういった方々をターゲットにしていた。「既存主流顧客の要望」に応えていたわけだ。

一方、われわれ凡人(?)はカセットテープに録音していた。その方が扱いが楽だったし、ウォークマンで聞くこともできる。
だったらレコード自体はいらないんじゃない?そのとおり。原本として保管され、陽の目をみることはほとんどなくなる。
じゃあ買うの勿体無くない?これもそのとおり。仲間内で買ったレコードを貸し借りして録音するようになる。
そんな状況から黎紅堂や友&愛などレコードリース業が誕生する。料金は250円ぐらい。当日返せばもっと安い。「借りてカセットテープに録音」することが多くなり、買うのは気にいったアーティストだけ。私の周辺ではそんな音楽ライフが主流だった。

そこに登場したのがCDである。
我々凡人にとってはまさにうってつけだった。
カセットテープは何回も再生すると音質が劣化してしまう。一方CDは全く劣化せず、しかもレコードと同等の高音質。さらに長寿命!

高価だった当初こそ普及しなかったものの、SONYが安価なCDプレイヤーを発売したのをきっかけに、一気に普及することになる。我々のような「マニアではない」横着なユーザーが目を向け始めたのだ
(この横着なユーザー=我々 が経営戦略論で言う「新規顧客」だったのだろう)。

当初カタログ一冊に収まる程度のタイトル数しかなかったものの、急増しCISCOやタワーレコードなどの輸入レコード屋も扱いはじめた。

このときがまさに「不連続」の時期だったのだろう。
とはいえ欲しかった海外アーティストが簡単に手に入るのはまだ少し先の話だ。