月別アーカイブ: 2014年9月

マーケティング用語としての「カニバリゼーション」

ヤッターペリカンなんて作ったからヤッターワンの出演回数が減っちゃったじゃないか!
カニバリズムというのはそういうことだ(この例で分かる方は相当少ないと思うが…)。

カニバリゼーションとは直訳すると「共食い」である。

これがマーケティング用語では
「自社の商品が自社の他の商品を侵食してしまう『共食い』現象のこと」
となる。
新商品の場合これを防ぐため
・既存とは異なるチャネルで展開する
・異なるターゲットを狙う
などの対策を行うのが一般的である。
要は似たような製品を売る場合は相手を考えましょう、ということだ。

昨今この「カニバリゼーション対策」に疑問符を投げかける経営者も多い。
最もわかりやすいのがApple社であろう。

「iPod TouchとiPhoneはカニバリゼーションを起こしているのではないか?」
という質問に対し、スティーブ・ジョブズは

「当社の製品と競合(カニバリゼーション)するのは当社の製品であったほうが良い。他社に競合を起こしてほしくはない」
と答えている。

後にiPadを発売したときも、Macが持っていた市場をiPadが侵食する事態が懸念された。だが実際に発売してみると、全体として100億ドル以上の売上をApple社にもたらした。

このことからApple社はカニバリゼーションを全く気にしていない、と言う人もいる。さらにはカニバリゼーションという考え方自体が古い、という意見もある。果たしてそうであろうか?

残念ながらそう単純では無さそうだ。

2013年Apple社は前年同期比から18%減と大幅減となった。
製品販売台数ではiPadが65%増であったにも関わらず、である。
この65%増の要因のほとんどはiPad miniによるものだ。
比較的高価格のiPad Retinaディスプレイモデルが売れず、安価なiPad miniが売れすぎた。このことが大幅減益の原因のひとつ、と言われている。

このことからもカニバリゼーションを軽視することは危険である、と言える。

さて。「カニバリゼーション」というこの言葉。連想されるのは「羊たちの沈黙」「ハンニバル」などの映画である。日常的にはほとんんど使わない言葉だ。くれぐれも、キーワードで画像検索などなさらぬよう。

あぁTechnics

教科書によると
「分割ファミリーブランドとは、似たような製品ラインをグループ化し複数のファミリーブランドを用いること」
だそうである 。事例として頻繁に挙げられているのがパナソニックだ。
曰く「パナソニック、ナショナル、テクニクスなど複数ブランドを用いていた」と。

ところが私は学生時代にマーケティング論の講義で
「松下は海外進出したときに、従来から使っていた National を使おうとした。だが既に使われていたため、Panasonicブランドを採用した」
と聞いた記憶がある。

推測だが、積極的に「分割ファミリーブランド」を選択したわけではなく、結果としてそうなった、ということなのではないだろうか。
また「テクニクス」はオーディオブランドである。むしろ個別ブランド戦略の一環といったほうが近い。
当時は他メーカーもオーディオブランドを採用していた。

オーレックス(東芝)
ローディー(日立製作所)
デンオン(コロムビア) などなど

松下が「テクニクス」というオーディオブランドを確立したのは、追随するチャレンジャー企業に対し同質化を狙ったのではないかと思う。

国内にパナソニックブランドが導入された頃、私もNationalではなく(少々高値の)Panasonicロゴを冠したビデオデッキを買ってしまった。海外ブランドのような雰囲気の漂うパナソニック。それは新鮮で格好いいブランドだった。

さてこの松下の複数ブランド戦略だがコスト管理問題の例として語られることも多い。
「松下はナショナル、パナソニック、テクニクスなど複数のブランドを持っていた。そのため、単一ブランドで事業展開するSONYと比べ費用面で不利であった」
と。なるほど。

個人的には愛着のあるオーディオブランドが無くなっていくのは誠に残念である。
ちなみに我が家のTechnicsチューナーはいまだ現役である。

Technics Synthesizer tuner

 

MBOとはなんぞや

企業に務めてた頃の話。

「S君。次回のボーナスの査定からMBOが導入されることになった」
「なんですか?それは?」

上司によると

  1. 会社の方針を理解する
  2. 方針に沿って各部門が目標を立てる(部門長が立案)
  3. その部門目標に沿った自分の目標を立てる
  4. 難易度と達成度で査定や昇給等が決まる

とのことであった。

だが私の属する間接部門は目標の設定自体が難しい。
やむなく「生産性の向上」をMBOとした。
これは会社が「組織MBO」と読んでいるもので、それとは別に「個人MBO」なるものも設定せよとの指示があった。個人MBOは組織目標とは関係なく自由に設定できる。なんでも良いらしい。

「本当になんでも良いんですか?」
「ああ」

かくして私の初めての個人MBOは
「腕立て伏せ50回できる体力をつける」
となった。なんともカスタマイズされたMBOである。
これに査定が左右されるのか。

そもそも、このMBOとはいったいなんの略なのであろうか。
正しくは、マネジメント・バイアウト…いや違ったマネジメント・バイ・オブジェクト、いやマネジメント・バイ・オブジェクティブ(目標管理)だそうだ。
メモしておこう。

Management Buyout (経営陣買収)
Management By Objective (目標管理)

とかくこの手の略語はややこしい。日本語だったら目標管理→目管、とか縮めてもなんとかなりそうだ。実際、経理(経営管理)とか、販管費(販売費及び一般管理費)とか、元の名前の影が薄くなってしまった略語もたくさんある。漢字のなんと素晴らしいことか。

さて。後に労働組合が実施したMBO説明会でも「MBOとはなんの略か?」と質問が出た。

「最も バカな 押し付け の略です」

組合側の意思が強く感じられる回答である。
このMBO。定着させるのは一筋縄では行かなかった。

VHD対レーザーディスク

もうひとつのデファクト・スタンダードの戦い。今やDVDもしくはブルーレイに置き換えられた、ビデオディスクの規格争い。VHD対レーザーディスクについて。

ご存知かと思うが、レーザーディスクは映画等の映像を見るためのものである。盤面素材はCDとほぼ同じ。オーディオのレコードぐらいのサイズ。レコード同様裏面があり、映画が途中で中断されるので手動でひっくり返す必要がある(後に自動再生のプレイヤーも発売されたが、映画が中断されることには変わりなかった)。

一方VHDはちょっと風変わりなモノだった。大きさこそレーザーディスクとほぼ同じサイズだったが、円盤はケースに入っており、直接見たり触ったりすることは無い。プレイヤーにケースを突き刺すと自動的に円盤が吸い取られる。見終わってケースを差し込むと円盤が戻される。

レーザーディスクはCDと同様レーザーで映像を読み取る。そのため直接接触しない、つまり摩耗劣化が無い。一方VHDは針(センサ)で接触するため摩耗する。ビデオのように、何回も見ると画質が落ちるのではないか?レコードのように傷ついてノイズが入ってしまうのではないか?そんな不安もあり購入する友人はいなかった。

そんなハード面の性能差もありレーザーディスクの勝利となる。
けれど最も大きかった要因はレーザーディスクプレイヤーがCDも再生できた点だろう。
・そろそろ映像が見れるプレイヤーが欲しい
・どうせならCDも再生できるものがいい
・その方が省スペースだし
そんな理由でレーザーディスクを買った人も多かったと思う。
もちろん「ネットワーク外部性」という要因もあっただろう。けれど、すでに確立していたCD規格に互換性があるプレイヤーだったことが徹底的だったと思う。

だが、その後まもなくDVDが発売され、レーザーディスクが一般家庭に普及することは無かった。

我が家のレーザーディスクプレイヤーも既に廃棄済み。「機動戦士ガンダム LDボックス」が押入で眠るのみである。

gundam

 

追記
当時パイオニアはこんなキャンペーンもやってました。
pioneerDVD

事実上の標準

経営戦略の講義続き。

今回はデファクト・スタンダード=事実上の標準、について。
「その製品やサービスの利用者が増えれば増えるほど、利用者の得る効用が高くなる」
これをネットワーク外部性という。デファクト・スタンダードが起こりやすいのは、このネットワーク外部性が働く産業である。

「例としてはビデオ規格のVHSが挙げられます」
「ベータという規格と競った結果、VHSがデファクト・スタンダードとして存続しました」

…これまた(前回同様)古い例が出てきたものである。

確かに松下対ソニーの戦いは壮絶であった…と言いたいところだが、ビデオが身近になったときには既に決着が付いていた。ベータはレンタルビデオ店で扱われないし、友人のビデオデッキもほとんどVHSになっていく(ベータだと成人男性向けビデオも貸してもらえない、なんて事情もあり…)。

唯一の例外は音質・画質にこだわるK君であった。

彼はベータに惚れ込み、既にVHSを持っていたにも関わらず追加でベータのビデオデッキを購入した。
彼曰く「やっぱ画質全然いいよ」

確かに性能は良かったらしい。テレビ局の撮影はベータで行われている、と聞いたこともある。家庭で録画するのがVHSであっても、オリジナル画像はベータというわけだ。

後半、ソニーはこの強みを活かし差別化戦略を採用する。
当時の音楽番組(MTV)の単独スポンサーとなり、CMに女性写真家を起用。

「綺麗だから私はベータマックスが好きです」織作峰子 SONY MTV CM

確かに高級かつ高性能に見えた。
けれどK君のような一部のマニアに受けたものの、状況をひっくり返すには至らなかった。

ソニーはこの苦い経験から規格統一に熱心になった、という話もある。

さて。この少し後、使っていたCDプレイヤーが古くなり、音飛びするようになった。
買い換えの時期がやってきたのだ。そして同時期にもうひとつのデファクト・スタンダード争いが進行していた。

LD(レーザーディスク)対VHDである。

 

イノベーションはS字曲線を描く

経営戦略論の講義を聴く。

イノベーションはS字曲線を描く。
不連続性である。

「例としてレコードからCDへの移行があげられます。」

また懐かしい事例が出てきたものである。

個人的な感覚では
レコード+カセットテープ → CD
が正しいように思う。

年配の方はご存知かと思うが、レコードは静電気ですぐ埃だらけになってしまう。傷も付きやすい。扱いがとても面倒なモノなのだ。

レコードを楽しむには以下の手順を踏む。

1.レコードをジャケットから取り出す
2.スプレーをかけ埃を取る
3.ターンテーブルに載せ
4.慎重にレコードの溝に針を載せる

これでようやく音楽が楽しめる。
しかもCDと違い両面(若者にB面って何ですか?と聞かれてショックだった)に録音されているため、片面(20分程度)聴くと裏返さなければならない。
あぁめんどくさい。

もっともマニアの方々は、この過程をも楽しんでいたように思う。
当時のメーカーもそういった方々をターゲットにしていた。「既存主流顧客の要望」に応えていたわけだ。

一方、われわれ凡人(?)はカセットテープに録音していた。その方が扱いが楽だったし、ウォークマンで聞くこともできる。
だったらレコード自体はいらないんじゃない?そのとおり。原本として保管され、陽の目をみることはほとんどなくなる。
じゃあ買うの勿体無くない?これもそのとおり。仲間内で買ったレコードを貸し借りして録音するようになる。
そんな状況から黎紅堂や友&愛などレコードリース業が誕生する。料金は250円ぐらい。当日返せばもっと安い。「借りてカセットテープに録音」することが多くなり、買うのは気にいったアーティストだけ。私の周辺ではそんな音楽ライフが主流だった。

そこに登場したのがCDである。
我々凡人にとってはまさにうってつけだった。
カセットテープは何回も再生すると音質が劣化してしまう。一方CDは全く劣化せず、しかもレコードと同等の高音質。さらに長寿命!

高価だった当初こそ普及しなかったものの、SONYが安価なCDプレイヤーを発売したのをきっかけに、一気に普及することになる。我々のような「マニアではない」横着なユーザーが目を向け始めたのだ
(この横着なユーザー=我々 が経営戦略論で言う「新規顧客」だったのだろう)。

当初カタログ一冊に収まる程度のタイトル数しかなかったものの、急増しCISCOやタワーレコードなどの輸入レコード屋も扱いはじめた。

このときがまさに「不連続」の時期だったのだろう。
とはいえ欲しかった海外アーティストが簡単に手に入るのはまだ少し先の話だ。