宇宙戦艦ヤマトが38年かけて得たもの、失ったもの。

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(写真:1978年7月に創刊された雑誌アニメージュ創刊号)


遅まきながら(本当に遅すぎるが)「宇宙戦艦ヤマト2199 星巡る方舟」(以下2199)を観た。1974年制作の「宇宙戦艦ヤマト」をリメイクした作品である。一気に観たい、などと邪な思いを持ったがために時間がとれず、公開された3年もたった今年、ようやく観ることができた。

旧作を観たのは38年前だ。巨大ロボットアニメが男の子向け番組として主流だった時代である。
そんな中、このヤマトの複雑なストーリーは衝撃だった。周り皆が夢中になった。後に公開された劇場版は初日に映画館に並んだ。その後のイベントで監督の西崎義展氏に会うこともできた。サインは断られたが、その理由を子供だった私に丁寧に説明してくれた。そのことがサインをいただくよりも嬉しかった。

当然旧作への思い入れは強い。本作も、所詮リメイクと侮っていたのだが...予想をはるかに上回る素晴らしい作品であった。リメイクでやって欲しかったこと全てをやってくれた感がある。アニメでこれほどワクワクさせてもらったのは実に久しぶりである。一気に観る、という選択は正しかったようだ。


最も嬉しかったのは音楽と効果音がほとんど同じものが使われていたことだ。

宮川泰氏の手がけた音楽(交響組曲宇宙戦艦ヤマト)は素晴らしいものであり、そのレコードはいまだ私の宝物だ。

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2199の音楽はご子息の宮川彬良氏が担当している。
旧作への思い入れが強かったため断ろう、と考えていた氏であるが、「最初のヤマトをやりたい」というスタッフの思いに賛同し担当することとなった。

効果音も当時のもの+アルファといった印象である。主砲や波動砲などの兵器音はほぼそのまま、ワープ音は後半にスピード感を加え、現代風にアレンジされている。そのせいか全般的に洗練された印象を受ける。

作画も秀逸である。戦闘シーンや構図など見ていて「気持ちいい」シーンが満載だ。

●38年間で得たもの
リメイクでは当然のことではあるが、この期間に進歩した技術や、調査で判明した事実が数多く反映されている。印象に残った箇所を挙げてみよう。

・距離が14万8千光年から16万8千光年に
これは観測精度が上がりマゼラン銀河までの距離が修正されたことによる

・ワープの説明に「ワームホール」という言葉を用いる
これは昨今の映画の影響であろう。最近の映画ではインターステラ(2014)でもこの言葉を用いている

・古代守の遭難船ゆきかぜの発見場所を土星の衛星タイタンからエンケラドスに変更

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これは嬉しい変更だ。エンケラドスもタイタンと同じ土星の衛星である。2005年以降、探査船カッシーニの調査により「太陽系で微生物が生息する可能性の最も高い場所として注目されている。


・右舷、左舷の読み方が「うげん」「さげん」から「みぎげん」「ひだりげん」へ
実際の海上自衛隊式の読み方に統一されたらしい。
海上自衛隊で新隊員がヤマトの影響で「うげん」「さげん」と言うのを矯正するのが大変だったという逸話があるそうだ。



●38年間で失ったもの
リメイクとして秀逸な2199であるが、残念ながら若干「深み」が失われたように思う。特にセリフが少々軽く感じる。

例として沖田艦長のセリフを挙げてみよう。

・第一話 地球に落とされる遊星爆弾を眺めるシーン

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旧作:
「だめだ。もう今は防げない。我々にはあの遊星爆弾を防ぐ力は無い。あれが我々の母なる地球の姿だとはなぁ」

2199:
「だめだ。もう今は防げない。我々にあれを防ぐ力は無い。この赤く醜い星が母なる地球の姿だとは。見ておれ悪魔め、わしは命ある限り戦うぞ。決して絶望はしない。例え最後の1人になっても、わしは絶望しない

2199のセリフは少々しゃべり過ぎ、力み過ぎに感じる。

・波動砲を初めて撃った後

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旧作:
「波動砲は我々にとってこのうえない力となる。だが使用を誤ると大変な破壊武器となってしまうことがわかった。今後使用には細心の注意が必要だ」

2199:
「われわれの目的は敵を殲滅することではない。ヤマトの武器はあくまで身を守るためのものだ。」
(宇宙さえ滅ぼしかねない力。我々は禁断のメギドの火を手にしてしまったのだろうか。いや今は思うまい。これが試しであるならば我々はその行動でよき道を示していくだけなのだ)

こちらも少々しゃべりすぎである。後段の沖田の考えている部分は要らないと思う。また検索しなければ意味がわからないような単語はヤマトでは浮いてしまう。

上記外にもやや長めのセリフが目立つ。その結果、解釈が限定され、想象の幅が狭くなっていく。観た人それぞれに想象させる余裕が欲しいところだ。

とはいえここまでレベルの高いリメイク作品を私は観たことがない。旧作への多大な敬意も感じられる。エンターテイメントとしても楽しい。特に古いヤマトがお好きだった同世代の方々は是非ご覧になっていただきたい。
また動画や作画を仕事にされている方々には全てが参考になるだろう。私自身も今後何回も観ることになると思う。このような作品はイノセンス(2014 監督:押井守)以来だ。

なお余談だが、新作「宇宙戦艦ヤマト2199 星巡る方舟」はがDVDが5月下旬発売予定だ。イスカンダルからの帰路のエピソードだそうだ。こちらも楽しみである。



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