2011年5月アーカイブ

Eurasia.jpg2011年5月21日。
午前中は夏の日差しだったが、午後になると天気予報通り大降りの雨となった。この雨のおかげで5月5日以来読んでいた「ユーラシアの双子」を一気に読み終えることができた。これだけ時間がかかったということは面白かったということでもある。


主人公石井は、3年前に娘を自殺で亡くし、そのことがきっかけで離婚している。50歳を節目に仕事をやめた彼は、偶然ハローワークでみかけたユーラシア大陸とシベリア鉄道のイラストにときめき、現地へ旅をすることを決意する。

旅の途中、食事中にウェートレスから話を聞く。
「五日前にあなたが座っているその席に、日本人の女の子が座ってた。彼女はシベリア鉄道に乗って地の果てまで行き、そこから海に落ちるんだって。彼女の瞳をみたとき言っていることが本心であることを知ったわ。でも言葉もかけられない。」
「私がこの話をあなたにしたのは、きっとあなたなら彼女を助けてくれるんじゃないかと思ったから。」
このときから、石井はこの女性を追うことになり、一気に話が動き出す。

 
大崎善生は4冊目になる。
前回読んだ「スワンソング」は辛かった。鬱と死を中心に展開される内容には手も足もでない。もうこの人の作品を読むのはやめようかと思ったほど。にも関わらず読む気になったのは、この作品には旅日記の要素が莫大に含まれていたからだ。
上下巻にわたる長編のこの作品はストーリーもさることながら、その旅日記的要素がとても心地よい。ウラジオストックまでいく船中の食事がいかに不味いか。牢獄のようなロシアのシベリア鉄道。ロシアを超えてヨーロッパへたどり着いたときの食事のおいしさの感動。それらがリアルに伝わり、読んでいるこちらまで空腹になってくる。「ディスカスの飼い方」同様、現実感を伝える文章は秀逸だ。男の「こうあってほしい」的願望に基づくストーリー展開や、主人公の過去を引きずる様も相変わらずである。この辺りは好き嫌いが分かれるところであろう。

上下巻600ページを超えるこの作品、大崎善生の旅日記として読んでも十分楽しめる。

cmLogo.jpg星新一氏のショートショートの一つに「宣伝の時代」がある。

その時代の人々は自分の条件反射を広告に使っている。例えば、くしゃみの都度「かぜにはルルル錠だったな」とつぶやく条件反射を設定し、製薬会社から広告料を得る。握手をするたび「VCCの缶コーヒーは最高だぜ」とつぶやく。美しい女性がキスする度「カペラドリンクはキスの味よ」とささやく。この世界の人々はなるべく効率の良い広告を設定し、高収入を得ようとしているのだ。

1970年にこれだけの事を想像していた氏は敬服に値する。

一方最近の広告業界はどうだろうか。氏の想像にまでは至らないが、新しい試みがテレビCMに見受けられる。

その一つがテレビアニメの「TIGER&BUNNY」である。
主人公がまとうパワードスーツには「SOFTBANK」のロゴが入っている。この世界のヒーロー達はスポンサーロゴを背負って企業のイメージアップに貢献するとともに、事件解決や人命救助に奔走しているのである。ソフトバンク以外にもバンダイやペプシNEX、牛角などさまざまな企業のロゴをヒーロー達が身につけているのだ。

スポンサーの商品を番組の出演者に使わせる「プロダクト・プレイスメント」と呼ばれる手法は以前からあったが、この「TIGER&BUNNY」では、ヒーローがスポンサーの商品を使うシーンは一切ない。彼らはソフトバンクの携帯も使わないし、ガンプラも作らないし、ペプシも飲まない。煙草を吸わないレーサーがJPSのステッカーをマシンに貼るがごとく、自身のパワードスーツに各社のロゴをちりばめているだけだ。

これらのロゴを入れる企業を募集したところ約70社から問い合わせがあったそうだ。今後ロゴの入れ替えや追加もあるらしい。制作会社サンライズの尾崎プロデューサーは「アニメビジネスの閉塞感を打破できるものになれば」と話していることから、広告収入が製作費として活用されていると見受けられる。CMはこのロゴだけにして、番組中断無しで放送してくれたらもっと面白かったと思う。

二つ目がテレビ東京の「7スタBratch!」で5月に放送された「こだわりの狭小住宅」だ。
30坪前後程度の狭い土地に建てられた家の工夫を紹介するこの番組、建築時の工夫・配慮もさることながら、住む人の工夫がとりあげているのが面白い。
番組では
「こんな以外なところに収納があるんですよ」
「ほおぉー」
といった会話のすぐ後に
「靴を上下に重ねて収納できるシューズホルダー32個セットがこのお値段!」
とCMが入る。ブログのアフィリエイト的な番組構成だが、一体化がとても上手い。

これらの手法には当然賛否両論がある。
「7スタBratch!」では靴の収納ケースを買いそうになった自分に驚いたし、「TIGER&BUNNY」はここまで前面に商売っ気を出すアニメには違和感を覚えた。とはいえ番組としてはとても面白いし、「TIGER&BUNNY」は評判が良いらしい。

先のショートショートは人間の「適応力の凄さ」に驚く主人公で終わる。
私たちはこれからもどんどん出現する新しいタイプのCMを、当然のように受け止めてしまうのだろうか?

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