宣伝の時代

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cmLogo.jpg星新一氏のショートショートの一つに「宣伝の時代」がある。

その時代の人々は自分の条件反射を広告に使っている。例えば、くしゃみの都度「かぜにはルルル錠だったな」とつぶやく条件反射を設定し、製薬会社から広告料を得る。握手をするたび「VCCの缶コーヒーは最高だぜ」とつぶやく。美しい女性がキスする度「カペラドリンクはキスの味よ」とささやく。この世界の人々はなるべく効率の良い広告を設定し、高収入を得ようとしているのだ。

1970年にこれだけの事を想像していた氏は敬服に値する。

一方最近の広告業界はどうだろうか。氏の想像にまでは至らないが、新しい試みがテレビCMに見受けられる。

その一つがテレビアニメの「TIGER&BUNNY」である。
主人公がまとうパワードスーツには「SOFTBANK」のロゴが入っている。この世界のヒーロー達はスポンサーロゴを背負って企業のイメージアップに貢献するとともに、事件解決や人命救助に奔走しているのである。ソフトバンク以外にもバンダイやペプシNEX、牛角などさまざまな企業のロゴをヒーロー達が身につけているのだ。

スポンサーの商品を番組の出演者に使わせる「プロダクト・プレイスメント」と呼ばれる手法は以前からあったが、この「TIGER&BUNNY」では、ヒーローがスポンサーの商品を使うシーンは一切ない。彼らはソフトバンクの携帯も使わないし、ガンプラも作らないし、ペプシも飲まない。煙草を吸わないレーサーがJPSのステッカーをマシンに貼るがごとく、自身のパワードスーツに各社のロゴをちりばめているだけだ。

これらのロゴを入れる企業を募集したところ約70社から問い合わせがあったそうだ。今後ロゴの入れ替えや追加もあるらしい。制作会社サンライズの尾崎プロデューサーは「アニメビジネスの閉塞感を打破できるものになれば」と話していることから、広告収入が製作費として活用されていると見受けられる。CMはこのロゴだけにして、番組中断無しで放送してくれたらもっと面白かったと思う。

二つ目がテレビ東京の「7スタBratch!」で5月に放送された「こだわりの狭小住宅」だ。
30坪前後程度の狭い土地に建てられた家の工夫を紹介するこの番組、建築時の工夫・配慮もさることながら、住む人の工夫がとりあげているのが面白い。
番組では
「こんな以外なところに収納があるんですよ」
「ほおぉー」
といった会話のすぐ後に
「靴を上下に重ねて収納できるシューズホルダー32個セットがこのお値段!」
とCMが入る。ブログのアフィリエイト的な番組構成だが、一体化がとても上手い。

これらの手法には当然賛否両論がある。
「7スタBratch!」では靴の収納ケースを買いそうになった自分に驚いたし、「TIGER&BUNNY」はここまで前面に商売っ気を出すアニメには違和感を覚えた。とはいえ番組としてはとても面白いし、「TIGER&BUNNY」は評判が良いらしい。

先のショートショートは人間の「適応力の凄さ」に驚く主人公で終わる。
私たちはこれからもどんどん出現する新しいタイプのCMを、当然のように受け止めてしまうのだろうか?

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このページは、nouvが2011年5月16日 23:03に書いたブログ記事です。

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